PFIの源流(英国)
1. PPP/PFIの起源(1980年代〜1990年代)
1-1. 背景と導入の契機
- **サッチャー政権(1979-1990)**による「小さな政府」政策の推進
- 国営企業の民営化を進め、政府支出の抑制と効率化を目指す
- 公共サービスの提供に民間の資本・ノウハウを活用する機運が高まる
- 1992年:PFI(Private Finance Initiative)の正式導入
- メージャー政権(1990-1997)が公的インフラ整備の財政負担を軽減するために開始
- 民間資金を活用し、設計・建設・資金調達・維持管理・運営を民間が担うスキーム
1-2. 初期の代表的事例
- ダートフォード・クロッシング(1991年契約)
- イングランド南東部の主要高速道路トンネル・橋梁プロジェクト
- 利用料金を徴収し、一定期間後に公共側へ移管(DBFO型の先駆け)
- ノーフォーク・ノリッジ病院(1996年契約)
- NHS(国民保健サービス)関連のPFI第一号
- 以降、病院建設・運営においてPFIが積極活用される契機となる
2. PFIの拡大期(1997年〜2010年代前半)
2-1. ブレア政権(1997-2007)のPFI推進
- 労働党政権下で「PFIの社会インフラ整備への本格活用」が始まる
- 特にNHS病院、学校、道路、刑務所などで数百件のPFIプロジェクトが実施
代表的事例
- ロンドン地下鉄PPP(2003年契約)
- ロンドン交通局(TfL)が地下鉄の維持管理・更新を民間事業者に委託
- 財務的破綻(2007年メトロンリンク社、2010年チューブライン社)により政府が再国有化
- Barts and The London Hospital(2006年契約)
- NHS最大のPFIプロジェクト(総額約10億ポンド)
- 高コスト構造が批判される一方、最新医療施設の提供には寄与
2-2. PFIの問題点が顕在化
- 財務リスクの増大
- 長期契約による政府の債務負担増大
- 予想を超える運営コスト増(例:病院・学校のPFIプロジェクト)
- 民間企業の倒産リスク
- カリリオン社(2018年破綻):英国最大級のPFI請負企業の経営破綻
- PFI契約の持続可能性に対する懸念が高まる
3. PFIの見直しとPPPの新たな方向性(2010年代後半〜現在)
3-1. PFIからPF2への移行(2012年)
- **キャメロン政権(2010-2016)**がPFIの問題点を踏まえ、新たなスキーム「PF2」を導入
- 公共側の出資比率を高め、リスク分担の見直しを行う
- 契約の透明性を向上させるため、情報公開を強化
- しかし、PF2の普及は限定的であり、実施プロジェクト数は少ない
3-2. 2018年のPFI廃止宣言
- メイ政権(2016-2019)がPFI/PF2の新規導入停止を発表
- 既存プロジェクトは継続するが、新たな契約は締結せず
- 理由:コスト高・柔軟性の欠如・財政負担の重さ
3-3. 現在のPPPの方向性
- PFIに代わる新たな官民連携モデルの模索
- **イングランド北部の地域再生プロジェクト(Levelling Up政策)**でPPP活用
- グリーンエネルギー・インフラ分野での民間投資促進(例:洋上風力発電プロジェクト)
- 「官民協力型パートナーシップ(Strategic Partnerships)」の導入
4. まとめ:英国PPP/PFIの教訓と今後の展望
4-1. 教訓
- PFIは財政制約下でのインフラ整備に有効だが、慎重な設計が不可欠
- 長期契約の柔軟性の確保が重要(財務・運営リスクの管理)
- 民間事業者の健全性を考慮した制度設計が必要(カリリオン破綻の教訓)
- 官民双方のリスク分担のバランスが重要(PF2の限界)
4-2. 今後の方向性
- PFI/PF2に代わる新たなPPPモデルの確立
- スマートシティ・グリーンインフラ分野でのPPPの発展
- 地域経済活性化(Levelling Up)を目的とした官民協力型パートナーシップの推進